ルテニウム系超伝導体において実現していると考えられるカイラルp波超伝導体の渦糸相における電子状態をアイレンバーガー方程式を用いて数値的に調べ、かつそれへの非磁性不純物の影響をt行列近似の範囲で調べた。磁場がかかっているために一般の超伝導渦糸状態では時間反転対称性が破れているが、カイラルp波の場合には渦糸中心付近で時間反転対称性が局所的に回復していることがわかった。このことにより、カイラルP波の渦糸中心付近では、磁場のかかっていないs波超伝導体の似た現象が起こることが期待される。その一例として不純物効果を研究し、カイラルP波の渦糸中心付近では非磁性不純物が効かないことを見出した。これは「磁場のかかっていないs波超伝導体では非磁性不純物は効かない」とするアンダーソンの定理がカイラルP波の渦糸状態で成立していると解釈できる。カイラルP波渦糸状態における特異な不純物効果の発見に基づき、電気伝導の具体的な温度依存性の実験による検証を提案した(3月に論文投稿)。 さらに渦糸の大きさが低温で縮まる効果(クラマーペッシュ効果)を数値的に調べ、カイラルP波超伝導体でも、この効果が起こることを見出した。非磁性不純物の影響が他の超伝導体に比べて著しく小さいことから、ルテニウム系超伝導体が最もクラマーペッシュ効果を最も観測しやすい超伝導体であることを結論し、実験研究者への提案とした。 また実験グループとの共同研究の中で、ボロカーバイド超伝導体の渦糸状態における電気伝導、比熱についての理論的解釈を与え、異方的s波超伝導体であると結論付けた。さらに柱状欠陥を導入したボロカーバイド超伝導体の比熱の実験結果から、異方的超伝導体の渦糸状態の比熱への寄与のうち、アンドレーエフ束縛状態からのものは、散乱状態からのそれに比べて無視できることを示した。
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