当研究課題では、三次元スピン軌道結合系における量子ゆらぎに焦点を当てた理論研究を目的としている。その最初の年度である平成12年度には、fccスピネル構造上のハイゼンベルグスピン系を考えた。この格子上のS=1ハイゼンベルグスピン系について、一次元のValence Bond Solidの考え方を三次元の系に拡張して、VBS的な無秩序相の可能性について調べた。。一次元とことなり、三次元では、VBS的な状態にマクロな縮退が残ることが期待される。この縮退を解く方法としては、格子との結合や、最近接対以外のスピン間の相互作用などが考えられるが、まず前者について考察した。各四面体に残る二重の縮退は、E表現に属することを明らかにし、磁気・格子歪み結合が存在することを明らかにした。その結果、磁気転移を伴わない構造相転移が可能となり、その結果生じる構造はZnV_2O_4MgV_2O_4で観測されているものと一致している。 また、スピン間の相互作用によって縮退を解くことについても考察した。この場合カイラル秩序が生じる可能性があるか否かが、面白い問題である。カイラリティーを対角化する擬スピン表示をとった時の有効ハミルトニアンは、XXZ型となることが期待されるが、多くの相互作用に対してXY的なクラスになり、現在までのところカイラル秩序を安定化するような相互作用は見つかっていない。
|