強相関電子系物質として特徴づけられる遷移金属酸化物は、固体内の電子が持つ内部自由度である電荷、スピン及び軌道間の強い相互作用に起因した超伝導特性や金属-絶縁体転移、巨大磁気抵抗効果、電荷秩序構造など種々の特異な物理的特性を示す。最近、我々はこのような多種多様な物理的特性を示す強相関電子系物質の一つであるマンガン酸化物において、電子の局在性に起因する電荷秩序状態と電子の遍歴性に起因する強磁性金属状態の共存状態(相分離状態)の存在を明らかにし、相分離状態と物理的特性との相関について研究を進めている。今年度は、Nd_<0.5>Ca_<0.5>MnO_3等において見いだされている電荷/軌道秩序状態に着目し、Mnサイトの一部を他の遷移金属(CrイオンやScイオン)で置換することによる電荷/軌道秩序構造の構造変化を調べるとともに、新しく誘起される強磁性金属相と電荷/軌道秩序状態との相分離状態についてローレンツ電子顕微鏡法及び高分解能電子顕微鏡を用いて研究を行った。以下、今年度得られた主な研究成果を示す。 (1)Mnイオンの一部をCrイオンで置換すると、新たな強磁性金属状態が出現することを見出した。さらに、そのナノ構造を透過型電子顕微鏡を用いて調べた結果、強磁性金属相への転移温度である120K以下では、電荷/軌道秩序状態は数十ナノメートルのサイズで存在しており、強磁性金属相と相共存していることが明らかとなった。さらに、ローレンツ電子顕微鏡法を用いて強磁性分域の観察を行った結果、強磁性金属状態は10-20nmサイズのマイクロ分域として存在していることの直接観察に初めて成功した。 (2)一方、Mnサイトの一部をScイオンで置換した場合、Crの場合とは異なり、新たな強磁性金属相は出現せず、60K以下の低温領域では、長距離秩序を持った電荷/軌道秩序状態が形成されていることが見出された。
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