研究概要 |
本研究はスピン三重項超伝導からモット絶縁相にいたるルテニウム酸化物の豊かな物理現象が、軌道縮退にいかに支配されているかを理解することを通して、強相関電子系の電荷・スピン物性に軌道自由度の果たす役割を明確にすることを目的として行った。また、2年間の研究成果の取りまとめを行った。 (1)ルテニウム系酸化物の構造量子臨界点近傍の金属磁性相 本研究の対象の中心である準2次元モット転移系(Ca,Sr)_2RuO_4については、多彩な物理現象を縮退した軌道の秩序状態変化という視点から統一的にとらえることに成功した。組成全域で良質単結晶を育成し、相図の詳細を決定するとともに、磁化率・比熱・電気抵抗率などの基本的な物理量に加えて、中性子回折による構造、フォノン、磁気揺らぎの情報などを合わせて、軌道縮退の変化がモット絶縁体からスピン三重項超伝導体Sr_2RuO_4に至る物性変化とどう係わっているかを明らかにした。特に磁気相関が強磁性から反強磁性へと変わる、(Ca,Sr)_2RuO_4の構造量子臨界点(Sr組成x=0.5)近傍での基底状態の磁気相図を極低温実験を通じて明らかにした。その結果、金属相領域で斜方晶歪みに伴う軌道エネルギー準位の分裂と軌道秩序とが反強磁性的スピン間相互作用を生み、一方、正方晶構造での軌道縮重が強磁性的スピン間相互作用を生むことを明らかにした。これにより、量子臨界点近傍でクラスター・スピングラス相と構造相転移が現れるメカニズムが理解できた。 (2)スピン三重項超伝導体の非磁性不純物効果 スピン三重項超伝導体Sr_2RuO_4のRuを非磁性不純物のTiイオンで部分置換した系で、イジング異方性をもつ局在磁気モーメントが現れ、磁気秩序にいたることを見出した。中性子回折の結果と合わせ、3つのフェルミ面のうち、1次元的軌道に基づくβ面が格子非整合の反強磁性秩序を誘起していることを明らかにした。
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