研究概要 |
本研究領域の課題である電子のスピン・電荷・軌道自由度の結合系としての強相関遷移金属酸化物系において,新たな量子現象を生み出す物質系の探索・合成を目的とし,興味ある化合物群について,結晶構造,組成,状態図の観点から,化学的にキャラクタリゼーションを行い,固体化学的な物質設計の立場から研究を行った.また,合成された物質について物性測定を行い,低次元スピン系・量子スピン系の振る舞いの実験的検証を行った.その結果,以下の新しい物質群が,量子スピン凝縮現象などの量子現象を示すことが新たに見つかった. (1)ホランダイト型Bi_xV_8O_<16>における金属絶縁体転移 (2)バナジウムナノチューブ化合物Na_3V_2O_7におけるスピンフラストレーション (3)AV_6O_<11>などの酸化バナジウム系のカゴメ格子のスピン-重項転移(A=Na,Sr,Pb) (4)YBaCo_2O_<5+x>における金属絶縁体転移 (5)トリルチル型CuSb_2O_6の異常な低次元反強磁性転移 (6)複合酸化物EuSr_2Ru_<1-x>Nb_xCu_2O_8における超伝導と強磁性の共存現象 これらの新しく見出された物質群の振る舞いは,スピン・電荷・軌道自由度の関連する現象であると考えられる.特に(1)のBi_xV_8O_<16>においては金属絶縁体転移の原因がバナジウムがV^<4+>とV^<3+>に1:2の比で電荷秩序する事によっており,その際にバナジウム3d軌道が選択的に占有され軌道秩序現象が起こり,本来S=1であるはずのV^<3+>がスピン-重項状態になることが明らかになってきている.また,残ったV^<4+>のS=1/2は低温の絶縁体状態で反強磁性的に磁気転移する事がわかり,この系は真にスピン・電荷・軌道の自由度の複合効果によって物性が決定されていると言え,本特定研究の目指す成果が得られつつある.今後これら(1)-(6)で更に詳細な研究を行い,多様な物性を生む起源を明らかにし,超伝導や金属絶縁体転移などを示す更に新奇な物質群の創製を行っていく予定である.
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