研究概要 |
本研究領域の課題である,電子のスピン・電荷・軌道結合系としての強相関遷移金属酸化物系において,物質設計を結晶構造,組成,状態図の観点に注目し,固体化学的な立場から化学的にキャラクタリゼーションを行い,新しい量子スピン的凝縮現象などの量子現象を示す物質を見出し創製することを目的とし研究を行い,以下の成果を得た.まず,パイロクロア酸化物と言われる物質系の中で,特に遷移金属酸化物Cd_2Re_2O_7に注目し,この物質が新しい第二種の超伝導体(Hc_2=0.8T)であることを見出した.このパイロクロア格子では隣同士のRe原子上の電子スピンが反平行に揃おうとするが,正四面体的な幾何学的配置のためにスピンが揃うことのできないスピン・フラストレーション系である.ところがある温度を境に,これらの四面体が交互に伸び縮みすることにより,4つのスピンのクラスター(一種の4量体)が生まれ,それらの中でスピン一重項が形成されフラストレーションが解消される.その状態のもとで,さらに低温(1.1K)で超伝導に転移することが新たに見出され,その超伝導機構などが注目されている.現在,微視的な立場から,CdのNMR測定やReのNQR測定を行い電子状態解明や超伝導発現機構の解明にアプローチしている.また,昨年度,新たに見出された金属絶縁体転移を示すホランダイト型バナジウム酸化物Bi_xV_8O_<16>についてVのNMR測定を行うことにより,電荷の秩序化,軌道の秩序化,スピン一重厚状態形成が金属絶縁体転移と同時に起こることが明らかになった.その他,金属・非金属転移および電荷秩序転移を示すYBaCo_2O_<5+x>の低温構造の電子顕微鏡観察に成功し,金属絶縁体転移の機構解明に対して大きな情報を得た.また,酸化物薄膜においても,室温あるいはそれ以上のキュリー温度を持つ強磁性金属の薄膜SrCoO_3,SrFe_<0.5>Co_<0.5>O_3の作製に成功した。更に詳細な研究を行い,多様な物性を生む起源を明らかにし,超伝導や金属絶縁体転移などを示す更に新奇な物質群の創製を行っていく予定である.
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