本研究の目的は、遷移金属酸化物の中で特に低次元相関電子系に焦点をあてて、量子相転移現象の系統的な研究を行うことである。本年度は以下のテーマに関して研究を行った。 (1)直交ダイマースピン系:SrCu_2(BO_3)_2は、フラストレーションの強い準2次元の反強磁性ハイゼンベルク模型で記述される。この模型に従来から知られていた相以外に新たなスピンギャップ相が存在する可能性をクラスター展開の方法で示した。さらに、3次元性の効果も取り入れて量子相転移を議論した。 (2)パイロクロア格子系:パイロクロア構造を持つ遷移金属化合物の中で特にフラストレーション効果の大きいY(Sc)Mn_2に関するスピン励起をクラスター展開を用いて調べた。この物質は、ダイマー相とプラケット相の競合する一次転移点付近に位置していることを指摘した。 (3)1次元軌道縮退モント系:最近、遷移金属酸化物で軌道自由度の重要性が指摘されている。この効果を取り扱うモデルとして軌道縮退のある1次元電子模型を導入し、ボゾン化法を用いてNMR緩和率や光電子放出スペクトルの計算を行った。 (4)遷移金属化合物の混合スピン系:大きさの違うスピンを含む低次元スピン系が実験的に注目されている。典型例としてNdを含むNi化合物は、交代磁場中の準1次元Haldane系として研究されている。この系での量子相転移を、Schwingerボゾン平均場で調べた。実験で観測されているスピンギャップの温度変化を定性的に説明できた。 今後、フラストレーション効果の強い電子系に焦点をあてて研究を進める予定である。
|