新しいスピンバルブ型磁気抵抗効果および異方的電気伝導を示す層状反強磁性Mn酸化物(Nd1-xSrxMnO3x=0.55試料)を母物質として、この系のAサイトイオンを置換することにより精密にバンド幅制御された結晶試料を作製しその電子物性を調べ、以下のことが明らかとなった。 1.バンド幅の減少に伴い反強磁性異方的金属相から反強磁性絶縁体相へ転移が観測された。これは電子状態を化学的な組成変化-化学圧力という外場-で制御したことに対応している。また、金属-絶縁体相境界のぎりぎりの絶縁体組成の試料に磁場を印加することによって(キャント反強磁性)金属相に転移させることができた。 2.安定な軌道・磁気秩序状態を持つx=0.55試料がどのような磁化過程で飽和磁化まで達するか、45Tまでのパルス強磁場を用いて調べた。超強磁場の印加によって反強磁性異方的金属相はメタ磁性転移を起こし強磁性等方的金属相に相変化させることができることも明らかとなった。この結果は磁場-温度平面上の相図として纏めた。 3.また、上記バンド幅制御(希土類元素の置換)の実験の過程で、Aサイトの希土類イオンの磁気モーメントに起因すると思われる磁性および電気伝導の異常な振る舞いを見出した。これはいままで殆ど影響が考えてこられなかった4f電子スピンの磁気モーメントが3d電子の電荷ダイナミクスに影響を与えていることを示唆しており興味深い。さらに現在、系統的に希土類元素を変化させた結晶試料に対して、低温での磁性および電気伝導を精密に測定し、2.と同様に相図に纏めている。
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