1)我々のグループの最重用課題である銅酸化物高温超伝導について、スピンゆらぎの理論を中心に従来の研究と現状とを総轄する総合報告(英文、上田和夫氏と共著)を執筆した。スピンゆらぎの理論の特徴は、高温超伝導のみならず重い電子系、有機超伝導など強相関電子系の異常物性と超伝導とを磁気不安定点近傍の臨界ゆらぎという観点から、統一的に記述できるところにあり、高温超伝導の主要部分についてこの理論はほぼ全面的に成功しているが、ホールをドープしたキュプレイトのアンダードープ領域に見られる擬スピンギャップの起源の問題が未解決のまま残されている。この問題についても議論を加えた。 2)ルテニウム酸化物:Sr_2RuO_4が奇パリティーの超伝導を示すことが発見されたが、それに対する一つの可能な機構として、軌道秩序に関する臨界点近傍の軌道ゆらぎによる機構を提案し、縮退ハバード・モデルを用いた理論計算を実行した(瀧本哲也)。 3)2次元有機超伝導体(ET)_2Xの擬ギャップの機構に関する研究の手始めとして、以前に採用したダイマー・モデルの基となる分子軌道のタイトバインディング・モデルに遡ってFLEX近似の計算を実行し、ダイマー・モデルの妥当性について検討した。ダイマー形成の傾向が強いことがこの物質の反強磁性とd-波超伝導にとって極めて重要なことが明らかになった(近藤恒)。
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