研究概要 |
本研究では,「物質の局所構造とダイナミクスを鋭敏に反映するラマン散乱」を銅系高温超伝導体に応用し、新しい視点からこの物質群が織りなす特異物性の検証と、新しい光機能の創製を目指した研究を進めた。主な成果は、以下の通りである。 (1)高温超伝導体の電荷・格子ダイナミクスの研究 特に注目したのが、「元素置換、温度、圧力等による結晶内の局所的構造変化とそれに伴うキャリア再分配と超伝導特性への影響」という問題である。この課題に対し、ラマン散乱により結晶内での局所的構造変化と電荷移動の検出が可能であることを新規に提案した。特筆すべきは、超伝導の舞台であるCuO_2面内のキャリア濃度の変化がCuO_2面が関与するラマンモードの強度変化から検出できること実証し、様々な物質系に対し電荷分布とT_Cとの相関関係を導いた点である。 (2)高温超伝導体における多重極現環境下での電子・格子構造の研究 「超高圧・極低温」を組み合わせた多重極現環境下でのその場ラマン観察を可能とする分光システムを設計し、高温超伝導体での超伝導転移温度の向上、梯子系酸化物における圧力誘起超伝導など、遷移金属酸化物系で現れる新奇な現象の解明を主体とした基礎研究を進めた。 (3)高温超伝導体における新規光機能の探索 物質と光との相互作用という観点から、高温超伝導体に潜在する新しい光機能の発見と設計を目指した研究を進めた。この課題に際し、紫外から近赤外まで励起光を自由に可変できる共鳴ラマン分光システムを構築し、光による電子励起が引き金となって構造や諸物性が変化する新しい現象や物質を探索する独自の手法(光誘起・その場ラマン観察法)を確立した。この手法は、「Y系高温超伝導体の可逆的光スイッチング」という画期的発見を導き、光ドーピング、光誘起超伝導という新概念の光機能の構築、超伝導応用への重要な指針を与えた。
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