太陽風内の衝撃波加速効果をも考慮した、太陽圏内での銀河宇宙線伝播過程を記述するFokker-Planck方程式(FPE)を、それに等価な確率微分方程式(SDE)におきかえ数値実験を行い、観測データとの比較から、より現実的な太陽変調のモデルを構築する努力を続けた。3次元に拡張したSDEの数値実験にはまだ成功していない。困難な点は、拡散係数テンソルの非対角成分の取り扱いにある。この過程で、SDEによる宇宙線伝播の数値実験の思わぬ方向への展開があることに気ずいた。銀河宇宙線のエネルギースペクトルは、エネルギーの冪関数で近似されるが、〜10^<15>eV以下とそれ以上ではその冪指数が〜2.7から〜3.0へと変化する折れ曲がりがあることが知られている。この折れ曲がりは、kneeと呼ばれ、kneeを境にして、宇宙線の化学組成が変化することも強く示唆されているが、その起源についての定説はない。一方、最近のX線による銀河団の観測から、銀河の外に低エネルギーの宇宙線が存在することが知られてきている。これらの粒子の起源は、まだ解明されていないが、そのエネルギースペクトルが>>10^<15>eVの高エネルギー領域までのびていれば、それらの高エネルギー成分は、太陽系内でも直接観測され、それがknee以上の成分であり、超新星に起源を持つknee以下の成分と起源が異なるために、kneeが存在すると考えられる。我が銀河周辺に存在するこれらの仮想宇宙線の銀河風の影響下の伝播をSDEを用いて解き、〜10^<15>eVに折れ曲がりが現れることが示された。今後この分野への研究を推進するとともに、銀河宇宙線の太陽風変調現象の3次元モデルの構築を目指す。
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