今年度は、太陽ニュートリノ問題の可能な解としてのRSFP(Resonant Spin Flavor Precession)解と関連する、ニュートリノ振動のPseudo-Diracシナリオについて研究を行った。RSFP解では世代が変化する共鳴的スピン歳差によって太陽ニュートリノ問題等を解決しようとするが、Pseudo-Diracシナリオでは同世代内でも共鳴的スピン歳差が可能になる。 このPseudo-Diracシナリオは本来ニュートリノ質量に関するシナリオであり、ニュートリノはほぼDirac粒子であるが、わずかなレプトン数の破れによる小さなMajorana質量の為にふたつのわずかに質量の異なるMajorana粒子に分離する、というもので、有名なシーソー機構の対極をなすシナリオである。Pseudo-Diracシナリオは豊富なニュートリノ振動現象を予言し、近年報告されている太陽ニュートリノ、大気ニュートリノ、およびLSNDのニュートリノ振動といった種類の異なる振動現象を同時かつ自然に説明可能なシナリオという意味で興味が持たれている。 今年度の研究では、1991年に研究代表者がKEKの小林誠教授、現京都大学助教授の野尻美保子氏と共同で提案したニュートリノ振動のPseudo-Diracシナリオを、世代間混合も取り入れて一般化し、現在の実験データから示唆される大きな混合角などを自然に説明可能な事を示した。また、一方ではスーパー神岡の実験が示唆するsterile stateへの大きな混合角のニュートリノ振動の問題点があることも議論している。またこのシナリオを実現するための理論的枠組みについての考察も行った。理論的枠組みとしては、4次元的なものとextra dimensionを持った高次元的なものの両方について考察した。 こうした知見は論文としてまとめられ、Physical Review Dに近日出版される予定である。
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