昆虫の機械受容細胞では、熱雑音が微弱信号の検出に有効に寄与していること、を神経パルス列として運ばれる情報伝送速度(bits/秒)を測定して実証した。 具体的には、1)閾値付近の人工白色雑音刺激を繰り返し与えて感覚細胞の発火を測定し、平均発火応答と1回ごとの応答の差を内部雑音と見なして情報伝送量を(bits/秒)を測定した。背景に「繰り返さない外部雑音」を重畳させ、その強度を変えて情報量を測定し、k_BT程度のエネルギーの外部雑音が感覚細胞の発火時刻を左右して、中枢へ送られる情報量を増すことを示す。感覚細胞が刺激から吸収した機械エネルギー量は感覚毛の長さから算出する。感覚細胞2個からの同時記録を効率よく行うため、実体顕微鏡とディジタルオシロスコープを導入した。2)中枢の介在神経と感覚細胞の応答の同時記録をとり、両者の閾値付近の刺激への応答から、感覚細胞1個あたりの介在神経への情報伝達量を測定するための予備実験を開始した。 その結果、1)気流感覚細胞の神経パルス列が中枢へ運ぶ情報伝送速度(bits/秒)の計測装置を組み上げて、刺激の強さを変えた測定により、刺激が強ければ情報伝送速度も高く、閾値付近の刺激では低かった。刺激の強さがパルス発火頻度(spikes/秒)に変換されるrate codingを考慮に入れて、個々の神経パルスが一定の情報量を担っていることを示した。2)情報伝送速度(bits/秒)を神経パルスの発火頻度(spikes/秒)で割って、神経パルス1発が運ぶ情報量(bits/spike)を求めた。この統計量は推定に用いるデータ個数によって変わるが、同じデータ個数での推定値を比べると、刺激が弱いほど多くの情報を担っていた。すなわち、感覚細胞の内部雑音が刺激の検出に寄与していることを明らかにした。
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