物理的環境を触感覚で知覚する動物において、周囲の物体の位置が中枢でどのように表現され、どのような神経回路を介して触覚行動として発現するのかを明らかにすることが本研究の目的である.探索行動中のワモンゴキブリは、触角(アンテナ)に静止物体が接触するとその方向へ定位する定型的行動が起こる.アンテナからの触感覚に基づいた物体の方向検知には、アンテナ基部の毛板とよばれる機械受容器が関与することが定位行動を指標とした毛板破壊実験により示された.アンテナ毛板は数十〜数百本の機械感覚毛からなるクラスタ構造で、関節の曲がり具合を検知する自己受容器として機能する.本研究では、毛板からのアンテナ位置情報とアンテナ先端からの接触情報とが統合されて周囲の物体の位置情報となる中枢過程、および触覚定位行動を発現・調節する中枢機構を明らかにする. 今年度は、上記触覚の中枢機構を解明するための前段階として、末梢におけるアンテナ2次元運動の表現様式を調べた.様々なアンテナ方向において活性化され得る毛板上の領域を調べ、柄節毛板を構成する3つ(背側、内側、外側)のサブ・グループの特徴付けを行った.柄節毛板背側部はアンテナの上下運動、内側および外側部は水平運動の検出に適していることが分かった.とりわけ外側部のサブ・グループは、アンテナ運動の上下方向成分の影響を受けにくく、水平方向成分を正確に表現することを見出した.さらに毛板機械感覚子の屈曲応答を記録し、phasic-tonic型の受容細胞であることを明らかにした.様々な刺激条件における屈曲応答からphasicおよびtonic成分の刺激-応答特性を示すフィット関数を得た.
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