威嚇行動発現中のアメリカザリガニおよびアメリカンロブスターの血液分析結果がまとまった。攻撃姿勢を10分間続けた個体を氷麻酔個体と比較した。ザリガニでは血液中のセロトニン濃度が、一方アメリカンロブスターではドーパミン濃度が、攻撃姿勢個体において有意に高かった。濃度の絶対値は個体差が大きかった。生体アミン代謝産物類の濃度は著しくばらつき特徴がなかった。反応する生体アミンの種類がザリガニとロブスターで異なるということは、80-90年代にわたって主張され続けてきた伝統的な考え方「セロトニンと威嚇姿勢の関係付け・闘いの勝者はセロトニンを放出している」と一致しない。今後、脳内のマイクロ回路レベルでの物質濃度を知る必要がある。 一方、威嚇行動の発現に連関してアミン濃度が上昇する結果が得られたので、これを高時間分解能でとらえるために、H13年度以降に予定していた、アメリカンロブスターにおける囲心腔内血中ホルモン濃度のin vivoマイクロダイアリシス分析を先行させた。この結果、アミンではなかったが、未知の物質の濃度が分の時間スケールで消長するという新事実をつかんだ。また、ダイアリシス中の雄が、他の雄、メス、異種(イセエビ)に遭遇したとき、あるいはヒトに対して威嚇姿勢をとったとき、いつでも、上とは異なる未確認物質の一過性濃度上昇が起きた。このような物質は複数存在した。これらの物質はすべて電気化学検出される物質であったが物質名はまだ分からない。このほかに本年度は、自由行動イセエビおける心電図記録・心臓制御における神経伝達物質放出回収モデルの構築(比較生理生化学会・山口大学発表、投稿中)、および、オニヤドカリの引きこもり行動の抗鬱薬による修飾およびその根拠としての血中ホルモン分析(未発表)などの成果を得た。
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