昆虫単一細胞内の局所的演算機能を明らかにするために、コオロギ気流感覚処理系において、様々な方向からの気流刺激に特異的に応答する1次感覚ニューロンが各巨大介在ニューロン(giant interneuron)の樹状突起のどの部位にシナプス入力しているかを調べた。まずコオロギの最終腹部神経節を露出させ、20μMのFM1-43存在下で尾葉神経束に電気刺激を行ったあと、神経節を摘出して共焦点レーザ顕微鏡で色素取り込みを観察した。その結果、尾葉から伸びる第8神経束から求心性神経線維とその神経終末と思われる構造がFM1-43によって強く染色された。特に正中線を挟んで左右対称に3対の部位に強い蛍光が見られ、それぞれ神経節表面から100〜140μmの深さに直径約100μmの領域で広がっていた。しかしながら気流刺激によるFM1-43の特異的な取り込みは観察できなかった。 そこでgiant interneuronにOregon Green488BAPTA-1を注入し、6方向からの気流刺激に伴う細胞内Ca濃度変化をIntensified-CCDカメラで光学的に計測した。その結果から各樹状突起における方向感受性マップを作製したところ、どの樹状突起においても基本的には膜電位応答のマップに従うが、部位毎に他の部位よりも感受性の強い刺激方向が存在した。すなわち、特定の方向からの気流刺激を受容する1次感覚ニューロン群は、その刺激方向に他の部位よりも高い感受性を示した樹状突起上に入力していると考えられる。したがってPostsynap-tic sitesにおけるカルシウムイメージングによりシナプス入力部位を推測できることが示唆された。
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