研究概要 |
ウイリアムス症候群は、ヒト染色体7q11.23領域の半接合体欠失によって生じる隣接遺伝子症候群で、エラスチン遺伝子欠失による動脈狭窄と隣接遺伝子の欠失による種々の症状を伴う。本症候群に見られる視覚性空間認知障害は、LIMキナーゼ1(LIMK1)遺伝子の欠失とリンクしてる可能性が示唆されている。私達は、LIMK1がアクチン脱重合因子コフィリンを特異的にリン酸化することを見い出し、アクチン骨格の再構築におけるRac, Rho→LIMK1→コフィリンというシグナル経路の存在を明らかにした。コフィリンはアクチンフィラメントのターンオーバー速度を速め、糸状仮足、葉状仮足の形成や細胞移動に必須の因子であり、神経細胞では神経突起の伸展・退縮に関与することが推定される。私達は、トリDRG細胞を用い、神経突起伸展におけるLIMK1の役割をタイムラプスシステムを用いて解析した。その結果、LIMK1の過剰発現により、成長円錐の運動性が抑制され、伸展速度の減少がみられた。キナーゼ不活性型LIMK1の導入により、成長円錐が広がり、糸状突起の増加が見られた。また、コフィリンの導入により、成長円錐の運動性と伸展速度の上昇が観察されたが、成長円錐の形態は細く異常となった。これらの結果から、LIMK1による局所的なコフィリンのリン酸化は成長円錐の運動性に関与しており、リン酸化、脱リン酸化によるコフィリン活性の適度な調節が重要な役割を果たしていることが示唆された。一方、京大上村らとの共同研究により、コフィリンを脱リン酸化するホスファターゼとしてSlingshotを同定したので、成長円錐の運動性と形態形成におけるSlingshotの役割は今後解明すべき重要な課題である。また、LIMK1遺伝子変異マウスを用いて、空間認知障害の機構を個体レベルで解明することが今後の最も重要な課題である。
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