本研究は、マボヤオタマジャクシ幼生(遊泳幼生)脳内のメラニン色素の質と量を人工的にコントロールし、色素細胞と個体の行動の連携機構解析の端緒とすることを目的とした。マボヤ幼生の脳内には、平衡器(otolith)と眼点(ocelIus)を構成する2個の色素細胞があり、それぞれ黒いメラニン色素を含んでいることが可視的に観察できる。受精卵を、そのメラニン色素産生の鍵酵素であるチロシナーゼの阻害剤フェニルチオウレア(PTU)中で発生させると、形態的には正常であるがこの色素を持たない幼生が発生する。この幼生は泳ぐことができない。そこでまず、チロシナーゼやTRP等メラニン合成に係わるタンパク質をコードする遺伝子の発現量をコントロールし、当該細胞のみをターゲットとした遺伝子発現システムを構築しようとした。 チロシナーゼ遺伝子についてはその発現領域を保証する転写調節領域を明らかにできた(Toyoda et al.2000)ので、今年度は同じく色素細胞特異的な発現をし、より発現量の多いTRP遺伝子について、その転写調節領域の解析を行い論文を準備中である。さらにはこれら遺伝子の発現を調節する転写調節因子をコードする遺伝子の解析も行った。またこの他にこれら色素細胞で発現する多くの遺伝子の情報を得ることができたので、より高い細胞種特異性を持つ調節領域の探索を始めた。機能解析として、まずチロシナーゼ遺伝子を過剰発現させるべく実験を始めたが、まだその十分なデータを得ていない。今後の課題である。また予想できない困難もあった。それは胚がハッチするころチロシナーゼ遺伝子の発現が急激に低下することであり、現在この問題を回避すべく検討を重ねている。またこの材料が限られた時期しか利用できないのは予想以上に問題となった。より効率的な遺伝子発現領域の探索を進め、過剰発現だけではなく阻害実験も進める必要がある。
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