脳の視覚系において、下側頭葉皮質は視覚性記憶に深く関与していることが知られている。この領域で、遅延対連合課題時に、cueにはほとんど反応しないにもかかわらず、遅延期間中に徐々に活動を高めtargetに対する反応に近づくという予測的活動を示すニューロン(pair-recallニューロン)が見つかっている。このようなニューロン活動は、下側頭葉の記憶メカニズムを探る上で非常に重要であるが、点アトラクタを基礎とする従来の記憶モデルでは説明できず、そのメカニズムは長い間不明であった。 これに対して、我々は計算論的な考察に基づき対連合記憶の神経回路モデルを構築した。このモデルは、相互に結合した2つの回路網N_1とN_2から成り、N_2からフィードバックされる学習信号を用いてN_1に軌道アトラクタが形成される。これによって対連合課題の学習と実行が可能であるだけでなく、pair-recallニューロン活動がよく再現される。また、N_1をTE野、N_2を嗅周皮質に対応づけることによって、種々の生理学的知見が説明され、いくつかの予言が導かれる。 ごく最近、Nayaら(2001)はpair-recallニューロンの活動を詳細に測定し、その時間特性を解析することによって極めて興味深いデータを得た。そこで、我々のモデルのシミュレーション結果について全く同様の解析を行ったところ、生理データと非常によく一致し、予言の一部が実証された。このことは、TE野に軌道アトラクタが形成されていること、及びそれに必要な学習信号が嗅周皮質から送られていることを強く示唆する。
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