1)培養海馬神経細胞では、培養後10日から20日の間に活発なシナプスの再編成が起こる。これに伴ったシナプスの形態変化の過程を観察するために、次の分子プローブを作成した。A)シナプス後部のマーカー分子であるPSD-95に、クラゲ由来の蛍光蛋白質GFPの長波長変異体であるYFPを結合したPSD-95-YFP。B)シナプス前部のマーカー分子であるsynaptophysinに、GFPの短波長変異体であるCFPを付加したsynaptophysin-CFP。これらの分子を、培養海馬神経細胞に組み換えアデノウィルスを用いて発現させ、CFPとYFPの蛍光を取得することにより、シナプス形成に伴い、短時間の内にPSD-95とsynaptophysin分子が選択的にシナプス部位に集積する過程を可視化することが出来た。また、この実験から、シナプス後部蛋白質の集積は、前部蛋白質の集積よりも遅れることがわかった。 2)PSD-95分子の動態が、細胞内へのカルシウム流入によってどのように制御されるのかを解析するために、fluo-3による細胞内カルシウム濃度測定を行った。グルタミン酸とKClによる刺激によって、それぞれ樹状突起内のカルシウム濃度は顕著に上昇した。これらの刺激に伴うPSD-95分子の分布の変化を解析するために、PSD-95-GFPを発現した細胞を用いて、刺激前後でのGFPの蛍光像の変化を解析した。PSD-95-GFPの局在は、これら二種類のカルシウム濃度上昇を伴う刺激によっては変化しなかった。今後は他のPSDに存在する分子について、樹状突起でのカルシウム濃度上昇に伴ってその局在を変化させるものが存在するのかを検討する予定である。
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