本研究では、生体のホメオスタシスを乱す様々な環境刺激に対して、反応性の行動や自律神経系の変化を発現する機序に関する形態的基盤を確立するために以下の実験を行った。動物(SD系雄ラット)を実験群と対照群の2群に分け、実験群は2時間持続的に拘束した後に深麻酔下に経心臓的に灌流固定し、対照群は無操作で灌流固定する。実験群および対照群両方の脳切片に対して、ニューロンの活動性の指標となるFosタンパクに対する抗体を用いた免疫染色を行い、実験群と対照群の所見を比較することによって、ストレス反応発現に密接に関連するニューロン群の分布を検索した。実験群のFos発現は、大脳皮質では内側前頭前皮質、視床では、正中髄板内核群に顕著であった。視床下部では瀰漫性にFos陽性細胞が観察されたが、室傍核で特に顕著で、外側視床下野と腹内側核ではほとんど観察されなかった。また中隔側坐核にはFos陽性細胞はほとんど分布していなかった。扁桃体核では、Fos陽性細胞は内側亜核に多く、中心亜核には少なかった。下位脳斡では、中脳中心灰白質、背側縫線核、外背側被蓋核、結合腕傍核、青斑核、孤束核、延髄腹外側網様体などで強いFos発現が見られた。現在は、以上の領域がストレスに対する反応性応答にどのような関与をするかを調べるために、逆行性標識トレーサー・コレラトキシンBサブユニット(CT-B)をストレスに対する応答の出力領域の1つである扁桃体のさまざまな亜核領域に注入し、CT-Bに対する免疫組織化学とFosに対する免疫染色を組み合わせて、扁桃体亜核への求心性入力の中で特にストレス反応発現に密接に関連するニューロン群の分布を検索する実験を進行中である。
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