本研究は、胚時期の脳原基の移植を鳥類の雌雄胚間で行い、性特異的な脳神経核の形態や行動の性分化が脳によりどこまで行われるのかを調べることを目的としている。 艀卵開始後1.5日目の発生段階の合った二つのニワトリ胚を用いて、脳原基の入れ換え移植を行っている。移植範囲としては、(1)脳全体、(2)前脳内側部と後方部全域、(3)前脳のみ、(4)前脳と間脳部、とした。その結果、艀化したキメラのうち、(1)が2羽、(2)が1羽、(3)が7羽、(4)が1羽の計11羽が成育し、性成熟を迎えている。これらのキメラの血液中のステロイドホルモンや脳下垂体ホルモンの濃度を測定するために、血液の採取を行っている。また、雌雄で差があることが知られている、オープンフィ-ルドでの行動量、行動様式、性行動について解析を始めている。 染色体上の雌雄の判定についてクロモヘリカーゼ(CHD)遺伝子を用いて判定する方法を確立した。このCHD遺伝子は、鳥類の性染色体であるZとW染色体上にわずかな塩基配列の違いをもって存在するので、その塩基配列を利用して設計したプライマーを用いたPCRにより、ゲノムDNAを材料にして、雄型のZZと雌型のZWを判定することができた。この方法を用いてキメラのドナー由来の組織からゲノムDNAを精製し、雌雄を判定する予定である。 さらにキメラの解析には、組織学的解析を予定しているが、そのための基本的知見を得るために正常脳の雌雄差について検討した。その結果、ニワトリにおいてはすでに艀化後1日の雛において脳の雌雄差がみられて、脳重量が雄の方が大きいこと、さらにNucleus commissurae pallii (nCPA)や内側視索前野(POM)の体積が雌に比べて雄の方が大きいことが明らかになった。
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