研究概要 |
人間の思考や意思伝達を柔軟なものにしている要因のひとつに「イメージ」による認識・思考がある.例えば,新しい研究の初期構想のように言語で正確に表現できない概念でもいくつかのキーワードをやり取りしながらその概念の「イメージ」は伝えることができる.このイメージ認識の機構が解明できれば人間と計算機のより柔軟な意思伝達の設計が可能となる.我々はイメージの生成を確率的推論過程として記述した数理モデルを提示している.本研究では,このモデルで記述された推論過程の脳内神経機構を神経回路モデルによる解析と心理物理実験で解明することを試みた. (1)数理モデル:心的イメージを複数の単位概念x_iとそれらの親近度距離d(x_i,x_j)からなる空間X上の確率分布として記述する.イメージのもつ曖昧さを確率分布p(x_i)から求まる情報エントロピーとして記述し,イメージの明確化の過程を情報エントロピーを最小化する探索行動として説明した. (2)実験:確率的推論の単純な課題として,被験者の固視点の左右どちらかに提示される輝点にサッカード眼球運動をする課題を考えた.この課題では輝点の提示確率が高い側への反応時間が短くなる.我々は,被験者は提示確率の大きさに応じて輝点の提示方向を予測し,提示以前にその側に輝点の心的イメージを生成しているのではないかと考えた.この過程を解析するために,輝点提示後のサッカード開始時刻を固視点の消去で被験者に指示してサッカード開始時刻を遅らせることで予測イメージと視覚入力の効果の減少と増加を調べた.実験データを線形の神経素子モデルで解析し脳内神経機構を推定した.その結果,サッカード反応は予測によって反応を促進する神経路と視覚刺激に応じて反応を起動する神経路の2つの系が並列に働いていることが示唆される.
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