作業記憶とは、必要な情報の短期的能動的な保持やその操作・処理に関わるメカニズムであり、前頭連合野がその遂行に密接に関係していることが示されている。しかし、作業記憶の遂行、特に必要な情報の授受、情報の操作や処理においては、皮質-視床間相互作用が重要な役割を果たしていると考えられ、中でも視床背内側核は前頭連合野と密な双方向性線維結合をもっていることから、作業記憶に深く関わっていると考えられる。そこで、視床背内側核が作業記憶の遂行に重要な関与をしていることを確かめる目的で、視覚刺激の呈示位置の作業記憶を必要とする課題をサルに行わせ、視床背内側核から単一ニューロン活動を記録し、課題との関連を検討すると同時に、同一課題で記録された前頭連合野のニューロン活動との比較を行った。 その結果、視床内側部でも前頭連合野で観察されるのと同様の課題関連活動が記録された。課題関連活動を示した約150個のニューロンの19%が視覚刺激呈示期に、49%が遅延期に、82%が反応期に有意な変化を示した。視覚刺激呈示期に変化を示したニューロンのほとんどが方向選択性を示したが、遅延期、反応期に変化を示したニューロンでは約半数が方向選択性を示し、残りは全方向性の活動を示した。また、反応期に活動を示したニューロンの66%がサッケード前活動を示した。この結果は、視床内側部も作業記憶の遂行に関わっていることを示しているが、前頭連合野で観察されるニューロン活動の特徴との間に様々な相違のあることから、視床内側部の作業記憶への関与のしかたは前頭連合野とは異なることが示唆された。
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