視床背内側核は、前頭連合野と双方向性の密な線維結合をもつことから、前頭連合野の機能を理解する上で、また前頭連合野と作業記憶との関係を理解する上で重要な脳領域である。しかし、その機能に関する詳細な研究はまだなされていない。本研究では、前頭連合野の研究で用いた課題を用いて視床ニューロン活動を記録・分析し、前頭連合野で得られた結果と比較することにより、視床背内側核の作業記憶への関与、ならびに前頭連合野との機能的関係を明らかにしようと試みた。視覚刺激が提示された位置へ3秒の遅延後に眼球運動をする課題と、90度時計回り方向へ眼球運動をする課題を行なっている2頭のサルの視床内側部より約400個のニューロン活動を記録し、分析した。その結果、視床ニューロンの17%で視覚刺激呈示期の活動が、47%で遅延期間活動が、82%で眼球運動時の活動が観察された。また、眼球運動時に活動を示したニューロンの55%はpre-saccadic活動を、45%はpost-saccadic活動を示した。この結果は、6割のニューロンが遅延期間活動を示し、また、眼球運動時にはほとんどのニューロンがpost-saccadic活動を示した前頭連合野とは異なる。また、課題関連活動の刺激呈示位置や眼球運動方向に対する選択性を調べたところ、視床ニューロンでは、視覚刺激呈示期の活動の82%が方向選択性を示し、遅延期間活動や眼球運動関連活動では選択性の有るものと無いものの比がほぼ1:1であった。一方、同一活動の方向選択性を両課題で比較することによりその活動が表象する情報を検討した結果、視覚刺激呈示期の活動は視覚情報を、眼球運動時の活動は眼球運動情報を反映しているが、遅延期間活動では67%が視覚情報を、33%が運動情報を反映していることが明らかになった。この結果は、視床内側部が作業記憶に関わっていること、作業記憶への関与は前頭連合野と類似しているが一致はしていないこと、を示している。
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