大脳皮質における神経回路の構築において細部における最終的な枝分かれからシナプス結合までの過程は神経活動を介する因子によって制御されると考えらる。特に皮質の2/3層のニューロンから発する水平軸索はニューロンの活動度によってその結合パターンが変化し得ることが示唆されており、この問題を解明するのに適した系である。本研究では、まずその前段の研究として、枝分かれの形成機構をスライス培養下で個々の軸索の枝分かれを数日間追跡することによって調べた。また、本研究では双極電極を用いた新たなエレクトロポレーション法を開発し、それによって培養したラットの大脳皮質切片内の少数の細胞に蛍光タンパクのベクターを導入することを可能にした。 生後0-1日目のラット大脳皮質切片を切り出し、無血清培地下で培養した。培養1-2週間後に、2/3層を水平方向に伸長する軸索(水平軸索)を蛍光タンパク質GFPによって標識し、共焦点レーザー顕微鏡を用いて経時的に(24時間ごと)観察した。その結果、以下の所見が得られた。i)培養1-2週間で表層の細胞から発する軸索は層と平行に走行し、1-2mm程度離れた場所で終末分枝を作り始める。ii)個々の枝は伸長・退縮を伴ってダイナミックに変化する。iii)培養13、14日目からはほとんど動かない固定化された枝が一部出現するようになった。以上のことから、水平軸索の分枝形成は成長や後退を含む動的な過程であることが示唆された。
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