味細胞特異的に発現する味覚受容レセプターに味物質が結合することにより、味覚識別が開始される。味覚受容レセプターの中で40〜80種類からなる苦味受容レセプターの遺伝子ファミリーがクローニングされたが、各味細胞がいかにして特定の味覚レセプターを選択発現し、さらに味覚識別を可能にするために、特定の双極性一次ニューロンとシナプスを形成するかは不明である。一次ニューロンが未分化の細胞に働きかけ、特定の味覚レセプターを発現するよう誘導するか(標的分化誘導)、味細胞が位置情報等をもとにレセプターを選択し発現した後、一次ニューロンが特定の味覚レセプターを発現している味細胞を認識し、シナプスを形成するか(標的選択)を明かにするため、まず特定レセプターの発現パターン、味細胞とシナプスを形成する中枢一次ニューロンの神経支配様式、及び一次ニューロンの延髄弧束核への投射様式を分子遺伝学的アプローチにより解析することを試みた。特定の味覚受容レセプター(mT2R5)の遺伝子座にtargeted mutagenesisを行うための(mT2R5をmT2R5-GFP=IRES=tWGAに改変)targeting vectorを作成した。このtargeted mutagenesisを行ったマウスでは、特定味覚レセプター(mT2R5-GFP)の発現パターンをGFPの蛍光により、またmT2R5を発現する味細胞と神経回路網を形成する双極性一次ニューロンの局在を味細胞から移行していくtWGAの検出により、可視化できる予定である。さらにBACライブラリーのスクリーニングにより、マウスの6番目の染色体上で、苦味受容レセプターファミリーがクラスターを形成している領域を含む、約200kbのBAC cloneを得、複数の苦味受容レセプター遺伝子座における上流配列の解析により、転写調節領域の候補を選出した。現在、苦味受容レセプターの発現調節を行う転写調節因子と、その発現における双極性一次ニューロン依存性を解明するため、研究を継続している。
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