研究概要 |
我々は、慢性的な虚血やてんかん性発作等における局所的な脳組織細胞変性の発生に,p53分子を介する脳神経特異的な細胞死へのシグナルが大きく関与していることを明らかにした。この現象のメカニズムを解明するため,独自に開発したproteomicsの手法によるdifferencialdisplay法,proteinaffinity beads法,及びマウス脳cDNAアレイを用い,ストレス負荷有無におけるp53遺伝子正常(p53+/+),及びノックアウトマウス(p53-/-)の脳神経組織・細胞におけるp53分子の動態解析と,その動態に付随して変化する全分子の検索・同定,及び機能解析を行った。まず,ストレス非付加状態でのマウス正常脳組織・細胞画分より微量蛋白質の解析法{二次元電気泳動(2D)/画像解析,HPLC, MAS,微量N-/C-末端/内部アミノ酸sequence, ESTdatabaseによるcDNAcloning,2Dwestern}を確立した。この方法は種々の脳神経系疾患関連遺伝子産物の翻訳後修飾(プロテオリシスを含む)による動態解析,及び新規を含む細胞内結合分子の同定に有用であった。マウス脳組織の5つの領域(頭頂側頭大脳皮質,小脳,海馬Cl-3領域,線条体A9領域,脊髄)からそれぞれの2Dマップを作成するため再現性のある約1200個の蛋白質を分離し、その中の約300個の蛋白質の同定を完了した。p53-/-マウスの2-Dマップを同様に作成し,そのプロファイルを比較したところ,p53-/-とp53+/+の各脳組織間に解剖学的な変化は認められなかったが,各組織のスポット約1000個中平均7個のp53-/-特異的変動蛋白質(apoptosis,腫瘍マーカー関連分子等)が検出された。次に,カイニン酸投与による興奮毒性誘導モデル,および総頸動脈塞栓糸モデルによる脳虚血誘導後のマウス脳組織に関して解析を行った。両モデルにおいて海馬領域,線条体領域の神経細胞死がp53-/-に比較してp53+/+で顕著であり,p53有無における海馬及び大脳神経培養細胞の細胞死の所見と一致する結果が得られた。これらの各組織細胞のプロテオームマップを作成し,そのプロファイルの詳細な比較解析によって,p53+/+に特異的に上昇したリン酸化P53,活性型caspase群,bc12ファミリー蛋白などを検出した。更に,これらの変動に伴う特異的分子群の同定と詳細な機能解析,及びこれらの全てのデータの情報公開のためのデータバンク作成を現在進行している。
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