海馬体から皮質領域への記憶信号出力は、おもに海馬台から起こる。本研究では、ラットの海馬台から嗅内野、前海馬台、傍海馬台、および脳梁膨大後皮質への投射様式を、逆行性・順行性標識法により大脳半球伸展標本の海馬長軸横断切片を用いて形態学的に調べた。 1)前海馬台、傍海馬台、脳梁膨大後皮質、内側嗅内野への投射細胞は、海馬台錐体細胞層のなかで深浅方向では中間部に、横断方向では遠位半に位置した。これに対し、外側嗅内野への投射細胞は、海馬台錐体細胞層の表層部と近位部に集中した。これは、海馬台の皮質下投射細胞のうち、乳頭体内側核投射細胞が前海馬台、傍海馬台、脳梁膨大後皮質、内側嗅内野へ投射し、中隔側坐核・視床下部投射細胞が外側嗅内野へ投射することを示唆する。また、視床腹側前核投射細胞は皮質性投射に関与しないと考えられる。 2)海馬台の皮質性投射には、海馬の長軸と横断軸に沿う局所対応が見られた。長軸(中隔ム側頭葉)方向では、海馬台の側頭葉部分は前海馬台、傍海馬台の側頭葉部分へ、嗅内野の嗅脳溝より遠い部分(内側部)へ、脳梁膨大後皮質の尾側部分へ投射した。横断軸方向では、近位部(CA1に近い側)の細胞は、前海馬台、脳梁膨大後皮質の近位部へ投射し、遠位部は各皮質領野の遠位部に投射した。また嗅内野では、海馬台近位部の細胞は、内側・外側嗅内野の境界領域に投射し、遠位部の細胞はそれぞれの領野で境界から遠い部分に投射した。 3)サルでの実験では、乳頭体内側核、視床腹側前核、中隔側坐核にトレーサーを注入し、海馬台における起始細胞の分布解析を行っている。中間的な所見として、ラットと類似して、視床投射細胞群はCA1から遠い領域に寄って白質に接すするように分布した。乳頭体内側核への投射細胞は、海馬台の横軸方向に広がり、視床腹側前核へ投射する細胞群よりも浅層に位置していた。中隔側坐核への投射細胞は、解析の途中である。
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