研究概要 |
1個の前駆細胞からつくられたT細胞のTCR鎖の多様性を測定することにより,その前駆細胞がTCR鎖遺伝子の再構成開始までにどれくらい増殖できたかが推定できる.個々の胎仔胸腺細胞をdGuo処理FTと共培養し,αβT細胞およびγδT細胞の生成とTCRβとTCRγ遺伝子の再構成をしらべた.αβT細胞に特異的な前駆細胞(p-αβ)から生成したT細胞では多数のDJ再構成がみられ,再構成開始前に10-20個の前駆細胞がつくられることが明らかとなった.一方,p-γδ由来のクローンの多くは,あまり再構成前増殖を示さず,γδ系列への分化ではほとんど増殖を伴わないことが示された.さらに,より詳細な検討によりγδ系列への決定はαβ系列へ向かう分化のいろいろな段階で起こり得ること,およびそれぞれの方向への決定の進行はTCRの再構成の成否とは無関係であることも明らかになった. 正と負の選択を起こすTCRからの信号がどのようにMKK1とMKK6の優先的活性化をもたらすのかを解析した.その結果,MKK6をリン酸化して活性化するMAPKKKのひとつASK1が負の選択における抗原レセプターシグナルに部分的に関与する一方,正の選択における抗原レセプターシグナルには関与しないことが明らかになった.幼若Tリンパ球の生死運命決定が,部分的にはRaf-1とASK1といったMAPKKKの優先的活性化によって分別されることが示され,Tリンパ球による自己・非自己識別の分子基盤のよりよき理解がもたらされた.また,Tリンパ球分化に伴う細胞移動の機構を解析するため,胸腺の器官形成や胸腺内での細胞移動を経時的に直接顕微鏡下で動画としてトレースする新規器官培養法の開発を始めた.
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