研究概要 |
胸腺へ移行するのはp-Tであるというわれわれの主張は,必ずしも多くの研究者の理解を得ているわけではない.HSC自身や,われわれが存在を否定しているT, B系列に共通の前駆細胞(p-TB)が移行すると主張する研究者も少なくないのである.そこで,胎仔血液中の前駆細胞についてしらべた.胎齢10.5日以後経時的にしらべた結果,血液中の前駆細胞のほとんとはp-Tであり,p-Bやp-Mはごく少数であった.また多能性を示す前駆細胞はほとんど検出されなかった.しかも,p-Tが血液中に出現するのは胎齢14日目までであり,胎仔肝臓内に存在していても血液にはほとんど移行しないことが明らかとなった.この結果は,以前フランスのグループが発表している胎仔期の胸腺へのT前駆細胞の移行は初期と17〜18日目の2回にわたるという結果の後半部分を否定するものである.さらに,胎齢10.5日目の胸腺原基周辺に検出される前駆細胞もp-Tであることが示され,p-Tが胸腺へ移行することは確定的となった. 幼若Tリンパ球の正負選択における細胞生死の分岐シグナルを解析した結果,負の選択におけるアポトーシス誘導に必須の転写因子Nur77は,セリンスレオニンキナーゼAktによってリン酸化され、転写活性が抑えられることがわかった.一方、AktはT細胞抗原受容体刺激により活性化され,正の選択を含むTリンパ球分化はPI3キナーゼ阻害剤により抑制された.これらの結果から,正と負の選択における生死運命分岐にAktによるNurr77のリン酸化という制御スイッチが存在することが示唆された. また,Tリンパ球の分化と選択に伴う細胞の位置認知と移動を解析するため,胸腺細胞の移動を経時的に直接顕微鏡下でトレースする新規器官培養法を関発した.この新手法を用いて胸腺にて成熟したTリンパ球の胸腺から末梢血への移出機構を解析した.その結果、ケモカインのひとつCCL19とその受容体CCR7を介したシグナルが新生仔期におけるTリンパ球の胸腺移出に必須の関与を示すことが明らかになった.また,CCR7欠損マウスでの胸腺移出の解析から、成体ではCCL19とCCR7には非依存性の胸腺移出機構も存在することが示された.
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