研究概要 |
本研究ではB細胞抗原受容体(BCR)からのシグナルによるB細胞活性化の負の制御、特に未熟B細胞ではBCR刺激によるアポトーシスの分子機構について解析を行った。未熟B細胞WEHI231細胞ではBCRシグナルによりアポトーシスが誘導される。その際、新規のタンパクの合成が必須であり、そのタンパクがミトコンドリアを標的とすることを見いだした。この新規タンパクのcDNAを単離し、iWH37と名付けた。iWH37はアポトーシスの際にミトコンドリアに局在し、VDAC, Bakと結合する。iWH37をCos7細胞に強発現すると、ミトコンドリアにiWH37が局在した場合は細胞死が誘導された。WEHI231細胞ではiWH37はBCR刺激により誘導される。iWH37cDNAをWEHI231細胞に一時的に発現させるとミトコンドリア膜電位の低下が誘導される。これらの結果から、iWH37は未熟B細胞の細胞死に関与する新規分子と考えられた。BCR刺激したWEHI231細胞の細胞抽出物を抗iWH37抗体で免疫沈降し、その沈降物を電気泳動して抗リン酸化チロシン抗体でブロットすると80kDa,20-25kDaのリン酸化タンパクがiWH37に結合して沈降してくることがわかった。現在これらの性状について解析中である。また、SHP-1を介するBリンパ球活性化の負の制御機構について解明した。BCR単独ではSHP-1を活性化できず、抑制性共受容体の存在下でBCR架橋がおこることによりはじめてSHP-1の活性化がおこった。さらに、SHP-1はIga/Igbそのものやシグナル分子SykやBLNK/SLP-65のリン酸化を負に制御したが、Lynは制御しなかった。Bリンパ球においてSHP-1は抑制性共受容体により活性化され、BCRそのものやその近傍のシグナル分子のリン酸化を負に制御することによりBリンパ球の活性化を負に制御することが明らかとなった。さらに、IgGとIgMのキメラを用いた検討から、IgGの細胞内領域がCD22のリン酸化を阻害することが明らかとなった。以上から、IgGの細胞内領域がCD22によるシグナル阻害を解除し、その結果、IgG-BCRはIgM-BCRやIgD-BCRに比べ効率よくシグナルを伝達し、IgG陽性細胞の効率よい活性化と効率よいIgGの産生がおこると考えられた。これまで、免疫グロブリンのクラス特異的なBCRシグナル制御の存在は知られていなかったが、今回の結果でその存在がはじめて明らかとなった。
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