研究概要 |
本研究課題では、ウイルス感染に対する抵抗性の分子機構を解明するため、シロイヌナズナ変異体を用いた抵抗性シグナル伝達系の解析とCMV感染に伴い発現が変動する宿主遺伝子の網羅的解析を行い以下の結果を得た。 (1)TIR-NB-LRRクラスの抵抗性遺伝子に支配されている抵抗性シグナル伝達系の下流では、リパーゼ様タンパク質をコードするEDS1が機能しているのに対して、CC-NB-LRRクラスに属する抵抗性遺伝子の多くは、そのシグナル伝達系の下流にmembrane-associated proteinをコードするNDR1が存在することが知られている。RCY1によるCMV(Y)抵抗性にはいずれの遺伝子が関与しているかについて、ndr1とeds1変異体をそれぞれ交配した後代を用いて調べたところ、いずれもCMV(Y)抵抗性を示した。したがって、RCY1によるCMV(Y)抵抗性には、NDR1、EDS1非依存シグナル伝達系が関与しているものと考えられた。NDR1、EDS1非依存シグナル伝達系の存在については、これまでにべと病菌抵抗性遺伝子(RPP7,RPP8,RPP13)で報告されているのみである。(2)次に、RCY1によるCMV(Y)抵抗性発現には、SAシグナル伝達系が重要な役割を果たしていることから、SAシグナル伝達系が恒常的に活性化されているシロイヌナズナ変異体(cpr5,acd1,acd2,ssi1,ssi2)のCMV(Y)抵抗性について検討した。その結果、接種葉におけるウイルス増殖、上位葉へのウイルス移行とも野生型と変異体(cpr5,acd1,acd2,ssi1)の間に明瞭な差は認められなかった。しかし、興味深いことにssi2変異体のみで、CMV(Y)の増殖と全身移行の顕著な抑制が認められた。一方、SAシグナル伝達系の恒常的活性化が抑制されている2重変異体であるssi2 sfd1変異体とssi2 sfd4変異体にCMV(Y)を接種したところ、抵抗性がなくなっていた。SSI2はstearyl-ACP desaturaseを、SFD1とSFD4はそれぞれglycerol phosphate dehydrogenaseとplastidic ω6-desaturaseをコードしていることから、脂質を介したシグナルがCMV(Y)の増殖移行を負に制御している可能性が考えられた。(2)CMV(Y)に抵抗性のエコタイプであるC24と罹病性であるColについて、約13,000のcDNAをスポットしたマクロアレイを用いて宿主遺伝子の発現を網羅的に解析した。CMV(Y)接種後0、6、12、24時間(局部壊死病斑は接種後24-28時間後に出現)について遺伝子発現の変動を調べたところ、接種後48時間では、抵抗性と罹病性を合わせて788遺伝子の発現が誘導され、150遺伝子の発現が抑制されていた。一方、接種後6時間では、抵抗性でわずか6遺伝子、罹病性で20遺伝子の発現が変化したが、抵抗性と罹病性に共通して変動する遺伝子はまったく存在しなかった。したがって、感染初期(6時間)において、抵抗性と罹病性で異なった宿主応答が誘導されていることが、遺伝子発現変動のレベルで明らかになった。
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