研究概要 |
キュウリモザイクウイルス(CMV)とタバコモザイクウイルス(TMV)は最も研究が進んでいるRNAウイルスである。本研究課題では、CMVおよびTMV抵抗性に関わるシグナル伝達機構について研究を行った。CMV-シロイヌナズナ系:シロイヌナズナのエコタイプC24は、CMV黄斑系統[CMV(Y)]に抵抗性を示す。このCMV(Y)抵抗性はRPP8/HRTファミリーに属する単一優性遺伝子RCY1により支配されていた。また、シロイヌナズナ変異体を用いた解析から、CMV(Y)抵抗性発現には、サリチル酸(SA)とエチレンを介したシグナル伝達系と新規なシグナル伝達系が関与することが明らかになった。さらに、SAとジャスモン酸(JA)を介したシグナル伝達系に異常をきたした2重変異体の解析から、抵抗性発現においてSAシグナルとJAシグナルは拮抗的にクロストークすることが明らかになった。Turnip crinkle virus(TCV)の抵抗性遺伝子HRTはRCY1のオーソログであるが、HRT抵抗性発現はSAを介したシグナル伝達系のみによって完全に制御されることから、RCY1とHRTは共通の祖先型抵抗性遺伝子から進化する過程でシグナル伝達系を多様化させたことが明らかになった。TMV-タバコ系:TMV抵抗性遺伝子Nをもつタバコ品種は温度依存的に過敏感反応抵抗性を示す。温度シフト処理により同調的にHRを誘導する系を用いて以下の結果が得られた。VVRK:HRや傷処理によりレセプター型キナーゼ遺伝子(WRK)の発現が急速に上昇することが明らかになった。WRKの発現が抑制された形質転換植物では、防御応答に関わるMAPキナーゼ(WIPK and SIPK)の活性化やJAの蓄積などが抑制されたことから、WRKのHRおよび傷応答への関与が明らかになった。HSP90:HSP90遺伝子の発現が抑制されている形質転換植物では、HRのマーカーであるイオン漏出が抑制された。さらに、HSP90の阻害剤であるGeldanamycin処理により防御応答に関わるMAPキナーゼの活性が抑制されたことから、HSP90のHRへの関与が示された。CaM(calmodulin):タバコCaM遺伝子ファミリーの13メンバーの転写量および活性が、HRや傷処理に対して差次的に発現変動することを明らかにした。さらに、CaM結合タンパク質としてMAPK phosphatase(MKP1)を同定した。MKP1過剰発現植物ではMAPキナーゼカスケードが不活性化されていたことから、Ca^<2・>/CaMシグナルを介してMAPKに流れるシグナルカスケードが、HRや傷応答に関わっていることが明らかになった。WAF-I:WIPKを活性化する化合物として新規テルペン(11E,13E)-labda-11,13-diene-8α,15-diolを同定しWAF-1と命名した。さらに、WAF-1が植物体内において新規シグナル物質として機能していることが明らかになった.
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