研究概要 |
神経回路は、発生期に神経軸索が誘引分子と反発分子の相互作用によってガイドされ、正しい標的細胞と特異的なシナプスを形成する事により形成される。この回路形成の最終段階において、標的細胞から分泌される因子によって神経軸索に側枝が誘導され、次いでシナプスが形成される例が知られている。この過程はシナプス形成とも密接に関連しており、神経回路形成機構を理解する上で興味深いが、軸索側枝を誘導する分子の実体に関しては未だ不明である。本研究は、この活性分子を同定し、その機能を解析する事を目的としている。 昨年度までは、軸索側枝誘導を観察できる初代培養系の確立を目指したが、その活性を確実に測定できる良い培養系を確立する事は技術的に困難であった。そこで、軸索側枝誘導活性を持つ事が知られている組織に特異的に発現していると予想される目的遺伝子を濃縮してクローン化する方法を採用した。 従来は組織間で発現量に差のある遺伝子をクローン化する方法としてサブトラクション法やディファレンシャル・ディスプレイ法が使われていたが、我々が検討した限りでは、全ての候補遺伝子を網羅的に単離しているとは言えず、特に発現パターンの良く似た細胞間で発現の差のある遺伝子を同定する事は困難であると思われた。そこで、より系統的、網羅的に遺伝子を解析する為にGene Chip法を用いる事とした。実際には、軸索側枝誘導活性を持つ事が知られている生後1日の新生ラット橋腹側部と活性を持たないと考えられる橋背側部の間で発現に差のある遺伝子をスクリーニングした。約24,000遺伝子から、5倍以上発現量の差がある候補遺伝子22クローンを選択し、現在脳内での発現パターンと発現時期について詳細な解析を行っている。また、Dilを新生ラットの大脳皮質に注入したトレーサー実験により、皮質脊髄路の形成過程において、軸索側枝が何時、どこで起こっているかについて調べた。
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