本研究では、発達期小脳でみられる登上線維シナプス除去と機能成熟の分子機構を解明することを目標とし、種々の自然発生ミュータントマウスおよび遺伝子改変マウスの解析を行ってきた。本年度は、高閾値型のP/Qタイプカルシウムチャネルを形成するα1Aサブユニットのノックアウトマウス(α1A-/-)と、抑制性伝達物質のGABA合成酵素GAD67のノックアウトマウスと野生型マウスとのヘテロマウス(GAD67+/-)を調べた。 生後3〜4週目のα1A-/-では、80%以上のプルキンエ細胞が複数の登上線維による多重支配を受けていることが電気生理学的及び形態学的解析の結果明らかになった。生後1日目からの発達の様子を電気生理学的に詳細に解析した結果、α1A-/-では、生後10日までの過剰な登上線維シナプス除去(前期シナプス除去過程)が著しく障害されていることが判明した。一方、生後10日から16日の間の除去(後期シナプス除去過程)は正常におこった。これから、P/Qタイプカルシウムチャネルを介するプルキンエ細胞へのカルシウム流入が、前期シナプス除去過程に必須であり、後期シナプス除去過程には別の機構が関与することが示唆された。 GAD67+/-では、成熟しても多重登上線維支配を受けるプルキンエ細胞の割合が野生型マウスに比べて明らかに高いという予備的結果を得た。このGAD67+/-の生後1日目からの発達を電気生理学的および形態学的に詳細に解析するとともに、もうひとつのGABA合成酵素であるGAD65のノックアウトマウスを調べ、登上線維シナプス除去と機能成熟に対する抑制性シナプス入力の役割を明らかにするのが今後の課題である。
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