tax-6変異体は、飼育温度にかかわらず、常に高い温度に移動する好熱性異常を示す。tax-6遺伝子は、カルシウム/カルモジュリン依存性脱リン酸化酵素であるカルシニューリンのAサブユニットをコードしていた。ほ乳類において、カルシニューリンは、免疫系と神経系で多量に発現している。免疫系では、NF-AT転写因子を介した遺伝子発現に関与していることが明らかになっているが、神経系における機能は、ほとんど不明である。分子遺伝学的解析により、TAX-6は、温度走性において重要なAFD温度受容ニューロンを含む、ほとんど全ての感覚ニューロンで発現し、AFDにおいて細胞自律的に作用している事がわかった。また、tax-6機能低下型変異体では、AFDの活性あるいは興奮性が過剰に上昇している事が示唆されたため、機能獲得型TAX-6タンパクをAFDでのみ発現させたところ、AFDが不活性化した。tax-6機能低下型変異体におけるニューロンの過剰な活性化は、浸透圧を感知するASH感覚ニューロンでも見られた。さらに、嗅覚ニューロンAWCによって感知される揮発性物質に対して、過剰な順応応答(Olfactory adaptation)をすることもわかった。いろいろな2重変異体の行動解析により、TAX-6の活性自体は、ニューロンの興奮性を担うカチオンチャンネルを介したカルシウムの流入に依存して制御されることが明らかとなった。以上の結果より、カルシニューリンは、感覚受容のシグナル伝達経路における負の制御因子である事が示唆された。 温度と餌情報の関連付けに関する変異体を単離するために、飼育時における餌の有無に関わらず、温度勾配上で、常に飼育温度に移動する変異体をスクリーニングした。現在までに、数種類のaho変異体が単離され、詳細な行動解析や遺伝解析を行っている。また、温度走性の逆転、すなわち飼育温度への走性と飼育温度からの忌避を引き起こす餌シグナルの情報伝達機構を明らかにするために、野生型における温度走性行動の詳細な解析や薬理学的解析も行った。
|