研究概要 |
1)スイスのロッシュ研究所のNef研究室とUCSFのBargmann研究室と共同で、C. elegansのカルシウムセンサー1(ce-NCS-1)が、線虫が温度匂配上で、等温線上に移動する行動に必須であることを明らかにした。また、このCe-NCS-1は、温度走性に重要な介在ニューロンAIYで機能していることも明らかになった。以上の事より、温度走性の神経回路モデルにおいて、介在ニューロンAIYとAIZは、外部刺激(温度)を受容した後の、シグナルの統合や情報処理に重要であると考えられるため、Ce-NCS-1は、温度走性過程における記憶・学習のプロセスに関与している事が示唆された(Neuron30,241-248,2001)。2)ttx-1変異体は、飼育温度に関わらず、温度匂配上で常に低温に移動する好冷性異常を示す。我々は、ブランダイス大学のSengupta研究室と共同で、ttx-1の原因遺伝子をクローニングし、TTX-1は、OTX/OTDファミリーに属するホメオドメインを持つ転写因子であることを明らかにした。このTTX-1は、温度受容ニューロンAFDでのみ発現し、驚くべき事に、本来、TTX-1を発現していない化学受容ニューロンで、TTX-1を強制発現すると、ある程度、ニューロンの形態および機能の両面で、化学受容ニューロンをAFD温度受容ニューロンに変換させることができることが分かった。つまり、TTX-1は、AFD温度受容ニューロンの発生・分化において、マスター遺伝子として機能していることがわかった(Neuron31,943-956,2001)。3)tax-6変異体は、飼育温度に関わらず、常に温度匂配上で高温に移動する好熱性異状を示す。我々は、国立遺伝学研究所の桂勲教授と共同で、tax-遺伝子がカルシュウム/カモジュリン依存性脱リン酸化酵素であるカルシニューリンであることを明らかにした。いろいろな分子遺伝学的な解析により、TAX-6カルシニューリンは、AFD温度受容ニューロンを含む、様々な感覚受容ニューロンにおいて、刺激の入力制御、つまりゲインコントロールを行うための重要な因子であることが分かった(Neuron33 in press,2002)。
|