蝸牛器官で電気信号に変換された後、音のもつ様々な惰報は活動電位列として聴覚神経核に伝えられ、そこで時間情報あるいは音圧情報が抽出される。この過程で高い-低いという音の周波数情報は周波数毎に並列の神経回路を構成して伝達されている。これまで、周波数情報に対応した神経細胞の活動あるいはシナプスの形態分化は知られていなかった。今回、我々はトリの大細胞核の周波数局在性を検討する過程で、Kチャネル、活動電位波形、膜特性、シナプス特性、および聴神経が形成するシナプス終末の形態が周波数局在に対応した分化を持つことを明らかにした。 Kv1.1チャネルは高周波数領域に密だが、Kv1.2チャネルには分布の違いはなかった。静止膜電位は高周波数領域で深く、閾値は高周波数領域で高く、活動電位は高周波数領域で小さく、一方シナプス電流は高周波数領域で大きい。シナプス電流は刺激強度に応じて全か無に高周波数領域では発生し、少数の聴神経によるシナプス形成が示唆される。一方、低周波数領域では刺激強度の増加にともなう増大を示し、多数の聴神経が多数のシナプス終末を形成することを示唆している。蝸牛器官にDilをいれ、聴神経を染色し、共焦点顕微鏡でシナプス終末の形態を観察した。高周波数領域ではEnd bulb of Held型の大型のシナプス終末が細胞体に数個形成されていたが、低周波数領域になるにつれ大型のシナプス終末は消失し小型のブトン様シナプス終末のみが観察された。対応する周波数の変化にともない神経細胞の電気的な性質、シナプスの電気的な性質そして形態的特徴も段階的に変化することをトリ大細胞核において示すことができた。
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