音源定位機能には広い動物種に亘って、周波数に依存した感度の違いがあり、中間周波数における解像度が向上している。本年度は、周波数領域に対応して大細胞核(NM)および層状核(NL)における、信号伝達特性および同時検出特性をニワトリヒナの脳幹切片標本を用いて明らかにした。NMでは高周波数から中間周波数領域において、聴神経の形成するシナプス終末が巨大な杯状であり、シナプス電流も非常に大きく、活動電位発射に至る時間的な揺らぎは10マイクロ秒程度であり、非常に正確な時間情報の抽出とシナプス伝達特性を持つことが証明できた。さらに、左右のNMから入力を受けるNLでは中間周波数領域で精度の高い同時検出機構を持つことが明らかになった。NM、およびNLにおいて、低閾値K電流の発現パターンを特異抗体を用いて検討したところ、NMではKv1.1が、NLではKv1.2の分布が周波数領域依存的であり、NMでは高周波数領域での分布が高く、NLでは中間周波数領域での分布が高かった。こうした結果は行動学的に知られている中間周波数領域での高い音源定位精度に対応するものであり、NLにおける同時検出精度の周波数依存性が、動物行動に大きく関与する可能性が明らかになった。これは、音源定位という複雑な聴覚機能も、左右の音情報を抽出し、比較する最初の神経核のレベルで相当な、精度の決定が行われることを示した研究であり、聴覚特徴抽出機構の理解に大きく貢献する研究である。
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