我々は小脳プルキンエ細胞と興奮性入力である平行線維との間のシナプスに見られる長期抑制がどのようなコンパートメントで、どのようなメカニズムで成り立っているかを第1の目標として研究を進めている。どのようなコンパートメントで変化が起こっているかを見るための道具として樹上突起からのパッチクランプ法が電気生理的方法としては存在するが、シナプス形成部位であるスパイン(樹上突起棘)のレベルで観測することは不可能で、そのためにはカルシウム指示色素を用いたイメージングを電気生理的計測と同期させることが重要である。今回の研究のためにビデオレートでカルシウム動態を樹上突起棘サイズレベルまで計測することを目標に共焦点顕微鏡を導入したが、樹上突起棘サイズレベルまで観測できるようにカルシウム指示色素を高濃度に持っていくとカルシウム指示色素のもつカルシウムキレート作用の影響で生理的なカルシウム変化が抑制される可能性が明かとなってきた。すなわち高親和性であるOregon Green BAPTA 1を100μMと500μMで用いた場合、500μMでは代謝性グルタミン酸レセプター由来のカルシウムシグナルの減弱あるいは消失の傾向が見られた。この解決のためにカルシウム顕微鏡の感度を高めるように現在調整を行っている。一方、メカニズムについて、代謝性グルタミン酸レセプターを介したシグナルが可塑性に関係していることはこれまで報告された実験結果から確実であるが、現在、細胞内貯蔵庫からのカルシウム放出と細胞膜を介した遅い内向き電流に伴ったカルシウム上昇の2つを観測しており今後この2つの経路のどちらがシナプス可塑性に関与しているか、同定していく予定である。
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