研究概要 |
魚が外敵からすばやく逃げる逃避運動は,後脳(延髄)に左右一対存在する巨大なマウスナー(M)細胞によってトリガーされる.硬骨魚のM細胞は単発の活動電位を発生し行動と1:1に対応する.しかし単純に見える逃避運動も刺激の位置によって異なる体の屈曲を示し,これはM細胞の活動だけでは説明できない.「M細胞だけではコードできない出力信号が,M細胞と相同の網様体脊髄路(RS)ニューロンによって発現されているのではないか」という作業仮説のもとで,相同RSニューロンの電気特性・入力特性と相互結合をキンギョとゼブラフィッシュを用いて電気生理学的に調べた.硬骨魚の後脳は7つの分節(セグメント)から成り立ち,類似した形態をもつRSニューロン群が隣接する分節に繰り返して現れる.第4分節のM細胞と相同のRSニューロンは隣接する第5-6分節に存在する.M細胞は発達初期(孵化時)に獲得された膜特性と強力な反回性抑制により単発の活動電位のみ発生する.一方,第5分節と第6分節に3種ずつ存在するRSニューロンはどれも脱分極量に対応したバースト放電を示した.また,M細胞とこれらのRSニューロンは感覚神経(聴神経,側線神経)からそれぞれ異なる様式で入力を受けていた.さらにM細胞から第5-6分節のRSニューロンへ,一方向でしかも相同性に準じた機能結合が明らかにされた.腹側にあるMiV2,MiV3へはM細胞から強い興奮性結合,背側のMiD2c,MiD3c,MiD2i,MiD3iへは主に抑制性の結合であった.このように隣接する分節に存在するRSニューロンには分節間および分節内での機能分化が見出され,それらのRSニューロンがM細胞と機能的結合をつくることによって,俊敏で方向性をもった逃避運動が達成されると考えられる.
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