我々は神経活動によって誘導される神経接着分子Arcadlinを見い出している。Arcadlinは、神経活動によってニューロンで誘導される。合成されたArcadlinはシナプスへ運ばれた後、シナプス前・後膜で同種結合することによって、シナプス結合の形態学的変化に関わると予想される。本年度は、Arcadlinの細胞内領域と結合するタンパク質TAO2の機能解析を行った。TAO2はMKK3をリン酸化し、リン酸化されたMKK3が今度はp38 MAP kinaseをリン酸化することが知られている。そこで、HEK293T細胞にarcadlin、TAO2、MKK3、p38 MAPKを強制発現させ、Arcadlinの細胞外領域蛋白質を培地に添加したところ、MKK3・p38 MAPKのリン酸化とArcadlin蛋白質の内在化が生じた。Arcadlinの内在化は、dominant-negative dynaminによって止まることから、clathrin-mediated endocytosisによると考えられた。また、TAO2やMKK2、p38 MAP kinaseを共発現させないとArcadlinのエンドサイトーシスが起こらないことから、細胞内のこれらのリン酸化酵素がArcadlinのエンドサイトーシスを制御していると考えられる。さらに、リン酸化p38 MAPKの阻害剤であるSB203980を加えることによってもArcadlinのエンドサイトーシスが抑制されることから、p38 MAPKが何らかの基質蛋白質をリン酸化することによってArcadlinのエンドサイトーシスが調節されると考えられた。 以上の結果から、Arcadlinの細胞外部分の同種結合によってTAO2が機能的に活性化され、その情報をp38 MAPKへ伝達することによって、Arcadlinのエンドサイトーシスが制御されることが明らかになった。これは、遺伝子発現だけでなく、「シナプス膜上の接着分子の数を調節することによってシナプス結合の強さを制御する」という、神経活動によるシナプス修飾の新しいメカニズムを示唆する。
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