研究課題
今年度も、主としてアジアにおける経済発展と所得分配の問題を念頭に置きながら、世代間分配の分析を行った。理論面では、経済発展と環境問題の関係を分析し、例えば財の貿易が生産構造を変化させることによってその国や地球環境の汚染にも影響を及ぼし、貿易構造によっては、貿易による利益を相殺して却って厚生を下げてしまう可能性があること、等が明らかにされた。さらに、重複世代(OLG)モデルの枠組み内で高齢化が経済成長と環境に与える影響を分析し、年金制度のありかた次第で高齢化が経済成長と環境にプラスにもマイナスにも働きうることを示した。また、同様のモデルを用い、環境破壊物質の排出権売買が経済成長と環境に与える影響を分析し、排出権を極度に制限すれば、経済成長を抑制するのみならず、長期的には環境の質をも悪化させうることを示した。これらの結果に基づき、環境政策のありかたを探った。これらに関連して、一部の研究者はマレーシアや東欧を訪問して、経済発展と環境問題についてヒアリングや現地調査を行った。また実証面では、パキスタンやタンザニアなどを中心に、生活水準や貧困の実態の変化を捉えるという課題に取り組んでいる。データの制約などから世代間の利害調整という観点からの実態把握にはいたっていないが、次年度以降の重要課題と考えている。なお、以上の分野とは多少異なるが、社会的共通資本(インフラ)の蓄積が経済発展にとって極めて重要な役割を果たすが、そのメカニズムを理論的に考察した成果も得られた。この研究では、社会的共通資本の蓄積が人々の空間移動のコストを下げることを通じて民間経済活動の生産性を高める点に注目し、一般均衡分析の枠組み内で社会的共通資本の蓄積が杜会厚生に及ぼす影響を分析している。
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