液晶相の構造を分子間相互作用に溯って理解するためには、各種液晶相の基礎物性に関する知識が不可欠である。特に液晶の層構造は、スメクティック液晶を特徴づけるものでありながら、光学的手段による間接的な情報にとどまっている。層構造解析の目的のため申請者らは、放射光X線マイクロビームを開発し、数ミクロン以下の領域での液晶局所層構造の測定システムを完成している。本研究では、これまでの技術的発展に基づき、スメクティック液晶の局所層構造の電場に対する時間応答を放射光X線マイクロビーム時分割測定法により明らかにする。このことにより、液晶層の示す電気光学的応答に対応した動的液晶構造解析が始めて可能になる。 実験は高エネルギー加速器研究機構・物質構造科学研究所・放射光研究施設を利用して得られる放射光X線マイクロビーム光学系を用いて行った。試料はシステムの基本性能の検討および基本的なスメクティック液晶の挙動解明のために、強誘電性液晶としてTK-C101を、反強誘電性液晶としてTFMHPOBCを使用した(以下標準液晶と呼ぶ)。本年度は、既存の1次元X線検出器による上記標準液晶による動的電場応答の基礎的なデータを取得した。特にMCS(Multi Channel Scaling)を使用することにより、過渡的な応答の詳細が明らかになった。更に、X線マイクロビーム装置の改良により、層変形の測定と光学応答を同時に測定することが可能となった。年度末に導入された高感度X線CCDカメラシステムについても上記標準液晶を用いた予備的なテストを行った。来年度以降これまでのデータとの比較検討を行い、また分子秩序に関する新しい情報の取得を予定している。
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