金属探針プローブを用いた近接場顕微分光装置を設計・試作し、近接場ラマンスペクトルの測定を試みた。具体的には、カンチレバー先端に銀を40nmコーティングした金属プローブを用い、その先端で電場を局所的に増強することで、ローダミン6Gやクリスタルバイオレット等の有機分子からのラマン散乱光を誘起し、スペクトルを測定した。さらに、試料を2次元走査しながらラマンスペクトルの中の特定のストークス線の散乱光強度を検出することで、空間的な分子の分布の画像化を行うことに成功し、30nmの空間分解能を達成した。金属探針を用いたことで、これまで報告されている近接場ラマンイメージングと比べて、分解能で3倍以上、測定時間では1桁以上の向上を図ることができた。さらに、探針先端の金属と分子間の化学的な相互作用によると見られるスペクトルの特異的な変化を観察することができ、分子の配向状態等をも可視化できる可能性を見出した。 また、ラマン分光法の相補的な情報を与える赤外近接場顕微分光法を実現するため、微小開口型カンチレバーの作製、その基礎特性の測定、さらに制御するための原子間力顕微モジュールの試作を行った。カンチレバーの作製にはシリコンプロセスを採用したことで、再現性の高い微小開口径を実現でき、かつ、複数のカンチレバーを同時に作製することを可能とし、しかも異方性エッチング過程で形成される広角の探針形状により高い光学的スループット(10^<-3>)を達成した。また、この微小開口型カンチレバーと原子間力顕微モジュールを用いて、コンタクトモードによる原子間力像も得た。
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