強誘電体薄膜の物性を、組成と界面から理解するため以下の研究を行った。 強誘電体薄膜の応用においては、反電場効果を考慮すべきであることは言をまたない。また、薄膜においては、酸素欠損等の組成ずれが不可避であり、最終的にはそれらをとりいれた理論の構築が必要である。その第1段階として、バルク強誘電性材料における組成と物性の関係をペロヴスカイト型酸化物PbTiO_3-PbZrO_3混晶を例にとり、理論を展開し、モルフォトロピック相境界近傍における材料の有用性は自由エネルギの秩序変数空間における等方性に由来すること、組成は自由エネルギの4次項のパラメーターとしてとりいれることが可能であることを明らかにした。 実験面では強誘電体薄膜における酸素欠損等の組成ずれの影響を、従来になく酸素欠損を低く制御し、薄膜と同程度にしたバルクBaTiO_3単結晶を用いて調べた。酸素欠損自体は特性を劣化させず、むしろリラクサー的な誘電率の増大をもたらすことがわかった。今後、組成理論の立場から、実験結果を解析し、強誘電性の発現機構の理解につとめる。 これまでの研究で、強誘電体素子の理解には、厚み方向nmスケールでの半導体との接合面、金属との接合面の物性の解明の重要性が、またFET型の強誘電体メモリーでは、強誘電体自由表面の理解の重要性が指摘されている。これらの問題については、1)強誘電体薄膜の界面でのバンドの曲がりの程度を光電子特性を通して調べ、また2)強誘電体表面を観察し、1格子ステップを発見した。1)、2)の結果の定性的・定量的な解釈は今後の課題である。
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