電子源アレイの高輝度化・高出力化のためにFEAの個別マイクロチップの動作解明を目指し以下の検討を行った。 (1)電界放射型放射電子顕微鏡により、電子源アレイ(FEA)の個別チップの動作特性の検討を行った。その結果、従来のMoチップFEAでチップ表面が清浄化されているなら、動作チップの割合が40〜50%程度になり、その中に大電流で放射するチップ数個を含んでいる。このような大電流チップに特殊な処理を施すことにより、動作チップの割合を90%まで高めることができた。 (2)電界放射型放射電子顕微鏡によりMoチップFEAの個別チップの放射電流の安定性を評価したところ、大部分が10%程度であることが分かった。また、その変動はゲート電極からのイオン衝撃によるものとして説明できることが分かった。さらに光電子放射顕微鏡(PEEM)の電子光学系(拡大率4万倍)を併用することにより、個別チップの放射電流の安定性を評価、解析した。放射電流強度の安定性は従来と同程度の安定性(10%)を得る場合においても、放射電流の指向性の変動を観測できることが分かった。 (3)低圧ガス雰囲気によるFEA電子放射特性、特に放射電流特性の向上の検討 FEAの放射特性の向上を目指して低圧ガス雰囲気中での電界放射動作を行った。低圧ガスとしては、水素、窒素、メタン、エチレンである。水素と窒素においてはイオン衝撃による吸着物の脱離と思われる放射電流の均一性や電流値に若干の特性向上がみられた。一方、炭化水素系のガスである、メタンとエチレンの場合は著しい放射電流の増大が観察され、特にエチレンではFNプロットの傾斜の変化、すなわち仕事関数の変化を伴うことも確認できた。これらの効果はガス排出後も継続した。電流密度の増加率は2倍であった。(ディスプレイなどへの応用が考えられる) (4)上記の解析で見出した放射電流指向性の変動を極端化するため、連携研究の一環として東北大学の研究班で試作されたSiFEAの低圧ガス雰囲気におけるFEA電子放射特性を引き続き検討しているが、今回は放射方向の変動の際にみられた特定方向への指向性を確認するために東北大学の研究班で試作された1チップSiFEAの特性を拡大観察した。現在までの検討ではSiの結晶方位に基づくような明確な放射方向の指向性を確認することはできていない。むしろ、マイクロチップ先端の吸着ガスの脱着現象に伴う放射方向の変動と考えられるような変化を観察した。 (5)電流密度の向上を図るため、W面及びMo面をYOやZrOで修飾した陰極を検討した。YO/W(100)陰極では仕事関数2.1eV、ZrO/Mo(100)陰極では2.0eVとなり、従来のW電界放射陰極より10倍の電流密度を得ることができた。また、処理温度も800℃(従来より400度程度低い)と低減することができた。
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