本研究の目的は、超音速分子線技術により材料表面を修飾し、仕事関数を制御することにより、真空マイクロエレクトロニクスに最適な陰極材料を開発することである。一般にマクロ的に計測される仕事関数は原子レベルでの「仕事関数」の平均値であるが、陰極材料の特性を支配するのは、この原子レベルでの最小の仕事関数値である。従って分子線技術による仕事関数の原子レベル制御実現のためには、超音速分子線技術と原子レベルでの仕事関数計測技術との結合が不可欠となる。本年度は(1)分子線による表面の原子レベル修飾と修飾表面の原子レベルでの仕事関数計測、及び(2)分子線装置と走査型トンネル顕微鏡(STM)との結合の実現を目標とした。(1)に関しては、超音速メタン分子線を用いてPt(111)単結晶表面に選択的に、分子線のエネルギーに応じて、エチリダイン基、炭化水素及びグラファイトの単原子層を析出させると共に、マクロ仕事関数の制御に成功した。また、グラファイト単原子層については、STMによるトンネル障壁高さ測定による原子レベルでの仕事関数計測を行った。その結果、グラファイト単原子層と下地との格子不整合に伴うモアレパターンの観測に成功した。このモアレパターンがグラファイトの炭素と白金原子と結合位置に伴う電荷移動に起因するものであることを明らかにした。(2)に関しては、分子線装置とSTMを結合する装置の開発を行うため、高融点金属試料対応の試料ホルダー設計や試料の分子線装置-STM間の移動機構、除振機構の開発及び、特殊仕様のSTM及び制御機構の新設などを行った。
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