本研究の目的は超音速分子線技術を用い、表面を原子レベルで修飾することにより表面の物性、特に仕事関数を制御するものである。平成12年度から平成13年度にかけて分子線装置と走査型トンネル顕微鏡(STM)との結合を実現した。その結果、分子線によって修飾された表面に関し、付設されたSTMにて原子レベルの構造及び仕事関数を計測することが可能になった。Cs単原子層にて被覆することによりPt(111)表面が電子構造的に修飾されることを、電子線やHe原子線による構造解析やマクロ仕事関数計測によって明らかにした。次に、このように修飾されたPt表面でのCH_4分子の化学反応(解離反応)を超音速分子線技術によって解析した結果、単原子層以下(0.06ML)のCs吸着により、全エネルギー190meV〜500meV、(表面垂直エネルギー成分95meV〜250meV)の領域においてCH_4の解離反応が全く進行しないことが分かった。STM計測により、この原因がCs吸着による吸着席周辺に形成される電子雲による原子レベル領域の反発ポテンシャル増大に伴う活性化障壁の増大(約250meV)によるものであることが判明した。このようにして得られる原子レベルの構造をマクロなレベルで評価するためにLEED/AESを導入した。LEEDによりマクロ構造を、AES(オージェ電子分光)により修飾された表面の元素同定を行うことができる。これら一連の研究により、より精密な表面修飾やミクロ及びマクロ物性の計測と制御の確立への道が開かれた。
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